渡邉 亮一 さん
私が最初に雨水貯留に取り組んだのは、勤務する福岡大学のサッカー場です。福岡では1999年の水害で城南区の七隈川が溢れ住宅に浸水しました。大学の敷地は七隈川流域の約1割で、学内に雨水貯留場を設けるのは、今後の雨水の流出抑制に繋がります。これを個人住宅で実験しようと、10年前自宅を「雨水ハウス」として新築しました。
4人暮らしで44tの雨水を溜められる設計で、家の基礎と駐車場地下にタンクがあります。雨水は6つの槽を移動させて浄化し、トイレ、風呂、洗濯、庭木の水やりに使っています。風呂と洗濯機は雨水と水道水の切替えが可能で、妻は自分の洗濯物だけ水道水で洗っています(笑)。
10年を経て、メンテナンスはほとんど掛かりません。これは当初の想定通りで、雨水が最初に溜まる流入槽底の泥も1〜2㎝程度、フィルターの目詰まりもない。さすがに2017年九州北部豪雨ではタンクも満杯になりましたが、溢れたら地下で土中に浸透する仕組みで水が表に流出することはありませんでした。
女性建築家、老舗工務店、雨どいメーカーなど多くの専門家が関わった「雨水ハウス」(2012年完成)。
家の基礎と駐車場地下に雨水タンクがあり6つの槽を約1ヶ月半かけて移動させ、浄化する。
河川の流域に暮らす住民が治水に参加する「流域治水」(※)という施策があります。雨水を溜めて毎日利用し、余分はゆっくり地中に返す「雨水ハウス」の生活がまさにそれ。流域に雨水ハウスやタンクが増えれば、大雨の際に水が一気に流出するのを緩和し水害リスクを減らすことができるのです。しかし10年前は、街に大きな貯水槽があるのに無駄なことをしていると言われました。大きな貯水槽は溜めるだけで、汚れた大量の水を電気で海に捨てているのに…。
ですが、菅前首相の「2050年カーボンニュートラル宣言」で状況が一変しました。水害だけでなく温室効果ガス問題も待ったなしのところに来ています。エコ住宅である「雨水ハウス」は環境に負荷をかけず、夏冬過ごしやすく、結露なく、メンテナンスもほぼ不要。10年のデータが揃った今、改めて注目していただければと期待しています。
※『SHINE』3号登場の島谷幸宏氏が提唱(現熊本県立大学教授)。国土交通省ホームページでは流域全体で水害を軽減させる治水対策『流域治水』への転換を進めることが必要である」と紹介されている。
最初に雨水が溜まる流入槽手前のゴミ受けだけPM2.5で真っ黒に。
庭のビオトープには小さな生き物が集まる。
浄化した雨水は塩素を含まず、水温も安定。コーヒーにも。
渡邉 亮一
福岡大学工学部社会デザイン工学科教授、工学博士。福岡大学工学部土木工学科卒業、九州大学大学院工学研究科水工土木学修了。2015年より現職。2009年より「100㎜安心住宅(雨水ハウス)の普及による流域治水の達成」を研究開始、現在も継続中。
https://www.facebook.com/ryoichi.watanabe.5
渡邉先生へのお問合せは、福岡大学(代表)
092-871-6631