カンボジアの首都プノンペンでは、水道の水をそのまま飲むことができます。それを実現したのは「シャインウォーター」の地元・北九州市の上下水道局でした。
内戦後の街に水道が通った
JICAと厚生労働省の要請を受け、北九州市がカンボジアの首都プノンペンへ専門職員を最初に派遣したのが1999年。内戦は終結していましたがインフラは荒廃、多くの女性や子どもたちが、水汲みに時間を費やしていました。街中では銃声が聞こえることもあったといいます。
水道普及率は25%、給水時間は10時間、さらに漏水・盗水による無収水率が72%という状況。漏水を改善できる北九州市独自の配水ブロックシステムを導入すると、メーターの数値が跳ね上がる場所を発見しました。現地へ行くとタンクローリーが消火栓から盗水…追跡するとある邸宅へ入っていったという映画さながらの出来事も。そんな中で職員たちは水道の整備、維持管理、人材育成に力を注ぎ続けました。05年にはプノンペン郡で水道の「飲用可能宣言」が出され、06年には水道普及率90%、24時間給水、無収水率8%に改善。「プノンペンの奇跡」と呼ばれています。
水環境の汚染から再生した北九州市
明治の近代化から工業都市として発展した北九州市。同じ頃井戸水からコレラが蔓延し、安全な水の必要性から全国でも早期に水道が普及しました。1960年代に公害が深刻化、婦人団体が市と企業に働きかけ環境再生へ動き出します。下水道の整備で水質が飛躍的に改善し、市の上下水道技術は国内外から高い評価を得ています。
ウォータープラザ北九州
水循環システムを実証するデモプラントと技術開発するテストベッドを備えた国内初の施設。市と民間が連携して、海外での事業化を目指しています。
国際貢献から水ビジネスへ
文化の異なる国に技術を伝え、人材を育てるのは簡単ではなかったはずです。北九州市が幸運だったのはプノンペン水道公社の総裁エク・ソンチャン氏をはじめ現地の人々に認められ、信頼関係を築けたことだと、現地と日本を行き来する海外事業課の廣渡さんは言います。それは裏を返せば、職員たちの人々へ水を届けたいという思いが、現地で伝わった証でしょう。参入から20年を経た今、北九州市の技術協力はシェムリアップ他8つの州都へ広がり、各地で水道事業の黒字化へと導いています。
地方自治体が水道技術で国際貢献できるのは、日本の水道法の下で鍛えられ、研鑽を積むことができたからと廣渡さん。「清浄な水を低廉な価格で人々へ届けるという水道局の思いは、地元でも赴任先でも同じです」。さらに北九州市はこれまでの国際貢献が地域活性へつながるよう「海外水ビジネス推進協議会」を発足。水が流れ続けるように、きれいな水を届ける人の活動も続いていきます。
北九州市上下水道局 海外事業担当係長
廣渡 博
2009年からカンボジアへ。一年の半分は現地で過ごしている。