川の師との出会いから水を育む森の仕事へ

林業家 巣山 太一さん

高校生の時、カヌーイスト・作家の野田知佑さんの著作に出会いました。カヌーで川や海を自由に旅する姿に心を動かされ、それまで所属していた体育会系の世界を脱落、それからは単独行動で、バックパックを背負い国内外あちこち旅をしました。大学在学中に四国の吉野川で始まったプロジェクト「川の学校」に参加し、憧れの野田さんについに会うことができました。実際にお会いした野田さんは、訓格めいたことは一切語りません。川で子どもたちと遊び、ときどき遠くを見つめ、お酒を飲んでいました。

吉野川の冬の朝。なんと表現したらいいのかわからない深い青。

穴吹川(吉野川水系、日本一の清流と言われる)の瀬の下に5メートルの深さになる大きな淵があり、深くて流れの強いところには鮎がところ狭しと泳ぎ回っていました。そこにたどり着きたいのだけれど、流れが強く体勢を維持するのが難しい。そんな一番深い川底にある大石につかまって、日の光にキラキラと反射する美しい鮎の姿を長い時間眺めていたのが、野田さんでした。今も変わらずカヌーの旅を続けられています。

「湖沼は文明を映す鏡である」と言われますが、川もまた然り。川と生活が密接にかかわっている日本では、私たちの暮らしぶりが川にそのまま反映されています。しかし今は、日本人は川に対して興味をほとんど失っているように感じます。お年寄りに話を聞くと、「昔の川はきれいじゃった。足をつけると、鮎がぶつかって来よった」というようなことを言われます。

そんな夢のような川を取り戻すために、自分にできることは何か。私は林業の道を選びました。川の源となる山で森を手入れして、きれいな水を生み出すのです。林業の仕事は体力的にキツイし、危険もたくさんあります。しかし土や木、そして山と川が私たちに「水」を育んでくれていることを、強く実感できます。つい先日、手入れしている森に、森林生態系の象徴であるツキノワグマが生息していることが分かりました。ますます仕事にやる気が起こっているところです。

フキノトウが顔を出すと、山の女たち(ヤマメ)も解禁になる。
タマゴタケは濃厚な味。ニンニクと一緒にパスタソースに。
川の源流水で淹れるコーヒーはまた格別!

巣山 太一

埼玉を拠点に各地から山設計や特殊伐採を請け負う。林業に加え、アウトドアガイド、講師など。野田知佑校長の「川の学校」初期メンバー。